Littosam〜リトサム〜

 M.Nagase:Essay Vol#2 

 

 

 長い間…時が経つのは早い…

 

今までどこにも語らなかった話…

先日、古くからの友人に会いそのことを聞くまで、語るつもりは無かった…。

 

「ナガセくんもう今年で13年も経つんだね…早いなぁ」

 

「13」

 

アイツを見かけなくなってから、そんなにも時間がたっていたなんて…。

世の中は20世紀が幕を閉じようとしている…

…「世紀末少年」…

…そうだ…そうだよな…そろそろ…。

 

 

あの日、3月29日、友人からの電話でアイツがいなくなった事を知った。

ただ、事態が掴めず唖然とするばかりだった。…心がカラカラに乾いた。

 

「そんな訳ないだろ…あるわけ無いだろ…」

 

何日か前、アイツはどこかに電話していた、公衆電話でどこかに。

「じゃあ、先帰るな」そういってアイツに手を上げた。

アイツは僕をかすかに振り返って見た…でも、何も言わなかった。

それがこの目でみるアイツの最後の姿になるなんて…

 

葬式にも出なかった…いまだに1度も墓参りもしていない…

終わってしまいそうで…怖かった。

 

 

僕達がまだ、「ティーンネイジャーだった頃」

 

アイツは

例の何も知らない無垢な赤ん坊のような笑顔で

「僕たちの音楽をもっと沢山の人たちに聞いてほしい、いつかきっと。

音楽は皆を楽しくさせるから…もっともっとがんばりたい」と。

 

僕は

「きっと、僕らでももっと、ぐっとくるような映画が作れるはずだ。

…何気なく、そして心に響くような。お客さんの為にも、自分の為にも」と。

 

「きっと出来るさ!!ナガセの事、解ってくれる人は絶対いる」

あの笑顔でそう言ってくれていた。僕がどん底の時代に。

だから「夢見る」事を諦めずにいられた。アイツの笑顔のおかげで。

 

僕は本当に奴らのLIVEを見るのが好きだった。インディーズ時代からずっと。

楽しくて、いつも元気をもらった。

それまで、パンク一色だった僕に、ロカビリーの良さを教えてくれたメンバー。

グレッチをかき鳴らすピッキングギター、スラッピングベース、ヒーカップで叫ぶ声

体の少し斜めでリズムをとる腕、腰…

右に向いたギター、お客に背を向け叩くドラム、ウッドベースに乗っかりながらの

演奏、寝っ転がって吹くテナーサックス、独特の動きで客をあおるギター…

何より楽しみながらのステージング、その全て好きだった。

 

まだデニムの、今で言う「縦落ち、BIG−E、ダブルX」なんてもんが

フリーマーケットで1万円しなかった頃(きっと価値に気が付いていなかったんだろうな…

そんなもんだ)ラバーソールを履いて、リーゼントに古着の皮ジャン…そんなカッコ(今で

も変わらないが)で奴らと一緒に、まるで僕もメンバーのように、ほとんど毎日彼らといた。

原宿…渋谷…桜木町…。

 

アイツと一緒に曲を作った…僕の誕生日にLIVEしてくれた…アイツに僕の絵を

プレゼントした…女の事、そっと聞いてくれた…アイツはブルースハープをくれた…

お互い好きな曲を聴きあった、大声で歌いあった…好きな映画の話で盛り上がった…

悪さもした…レコーディングに立ち会った…弱音も吐いた…泣いた…朝まで笑った…

 

書ききれないよ…オイ…

 

アイツがいっちまった後

1つのオーディションの話が舞い込んできた。

 

『ジム・ジャームッシュの新作オーディション』

…あの頃僕がアイツに熱心に語っていた監督の1人。

 

僕は何故かマネージャーが心配するぐらい自信があった。

「そのままの自分を見てもらおう。きっと解ってくれるはずだ。アイツが言っていたように…

自分が信じたように…」

 

ジムは後に「飛行機が離陸した瞬間に君の名前が浮かんだよ。それで決まりだったな」

そう言っていた。空に飛び立つ瞬間に…。

 

その映画はオーディションに行くまで、内容や役柄は何も知らされていなかった…そしてその役は

 

「ロカビリーに憧れてる少年」…

 

僕は奴らと一緒に買ったラバーソールを履いて、リーゼントでそのオーディションに参加していたのだ。

いつものそのままのスタイルで。

それまでは同じ意識で他のオーディションに挑んでも「音楽屋みたいなカッコだ。役者っぽくない」

という理由で(何が役者っぽいのか今でもわからない、別になりたくもないが)芝居も見てもらえず、

罵声を浴びせられながら、たまには完全シカトで、ことごとく落とされつづけていた。

 

しかし、ジムは解ってくれた。きちんと僕の“中”を見てくれた。

アイツが言っていたように解ってくれる人がいた…しかもジムが。

 

そして、あのラバーソールを履いて僕は映画に出演した。

劇中、僕が持っているトランクの中に入っているロカビリー関係の雑誌等は、

他のメンバーが用意してくれたものだ。

しかも、僕の中の神様の1人、パンクの勇「ジョー・ストラマー」がこの映画に

出演する。「ロカビリー+パンク」そして「ブルース」(スクリーミン・ジェイ・ホーキンス、

ルーファス・トーマス、声だけだがトム・ウェイツ等)の世界。

 

映画と音楽が融合する作品…「MYSTERY TRAIN」

 

ロカビリーの聖地「メンフィス」。エルビス・プレスリー、カールパーキンスが生まれた地。

黒人と白人の音楽が合致した場所。

 

僕は歩いた…「サンスタジオ」、「ビールストリート」e.t.c.

アイツが話してくれた場所を次から次へと…ロビーミューラーさんのカメラの前で。

 

 

日本へ帰国する前日、僕はホテルのプールサイドでどこに行くことも出来ず、気力も無く

やり終えた充実感と、そこを離れたくない想いと、それから…アイツのことを考えて

ただボーっとしていた。

するとスタッフが全員、次から次へと降りてきてくれ、声をかけてくれた、本当に全員。

1言だけの人、ただ肩を抱いて去っていく人、2時間ぐらい話し込む人…。

最後にうわさを聞きつけた監督がやってきた。

はじめは無言のまま、お互いプールの水面を見つづけていた。

 

そして僕は言った。アイツの事を。

 

「…だから、絶対この映画は成功する。だって、アイツが一緒に来てくれてるから」

 

ジムは「そうだな。絶対成功するな。ありがとう、その友人にもお礼を言っておいて。

ただ、出来上がるまでこの事は2人の秘密にしておこう…実は…」

僕らの話は夕日が月にバトンタッチするまで続いた。最後に恋人同士のように

僕ら3人は抱き合った。

 

日本公開の初日。僕は1回目の上映から最終回までずっと劇場のロビーにいた。

スチールカメラマンの鋤田正義さんと共に。

見届けたかった。観てくれたお客さんの顔を。

アイツの憧れていた場所、世界…僕が想い募らせていた映画…。

皆楽しそうに劇場を後にしてくれた。そして心の中でそっとアイツに報告した。

 

「お互い好きなモノが合体した世界を皆楽しんでくれてる…宮城、やったぞ!!

…ありがとう… 」

 

 

「For the boys…」シングルはその曲と決めていた。

アルバムヴァージョンの間奏にはアイツの声を入れた…あの頃のように

もう2人で歌えないけれど…せめて…。

子供達の歓声の中で…「Let‘s GO」

進もう、進んでいこう…。そうだよな?

 

もう、Littosam〜宮城はこの世にはいない…でもきっと

『夢見る頃を過ぎても』あの頃の想いはずっと変わらない…色褪せはしない。

心からの君のぬくもりは消えやしない…進んでいこう、進むんだ。

 

キング・オブ・ロカビリー「エルビス・プレスリー」と同じ日に生を受けたヤツ…

音楽に真剣に向き合って、全てを愛したヤツ…

なにより、大切な友人…宮城宗典〜リトサム…

 

「Dear Friend」〜

 

 「元気?こっちは元気だよ。もうすぐ21世紀だってさ。そんじゃ、また近いうちに…」

宮城、ヒルビリーバップスのみんな…君達は永遠に僕の親友です。

  

From:今でも相変わらずラバーソールのアンちゃんより。

 

 

 

                                M.Nagase 2000

                        (長くなってしまった、ゴメン)