The Thirsty Flower〜four by four equal one〜

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 真夜中…とある工場街…
深夜にも拘らず、時折呻き声の様な工場のノイズが聞こえている。
廃墟の隙間に、まるで捨てられたように、うずくまっている女が1人。 口元には殴られたような小さな痣…彼女はこの場所に捨てられる前に何か屈辱的な仕打ちをされたのだろう…乱れた服に、紐のほどけたスニーカー…。

彼女は呆然と立ち上がり、夜の街並みを彷徨い始める…。
ココロのイメージがフラッシュバックする中、女は公衆トイレに立ち寄る。
無表情のまま、女はひたすら手を洗う…洗い続ける。
汚れさせられたモノを全て洗い流すが如く…。
ふと、鏡の中に映る口元に痣のある自分の顔に気付き、現実に引き戻される女。
突然、服を脱ぎだし、体中を擦り始める…先程の悪夢を振り払うように…。

女はスクラップカーを見つけ、その中にもぐりこみ、疲れ果てた体を横たえる…そして彼女のココロの中のイメージの世界に入り込んでゆく。
「…鎖に繋がれ身動きが取れない自分…猿轡をされ口が利けない自分…」
彼女は今の自分をイメージの世界の中に見た。

再び真夜中の街を彷徨い始めた女…途中、骨の折れた赤い傘に出会う。
その壊れた傘と自分の姿を重ね合わせたかの様に、彼女は手に取り歩いて行く。

埠頭の端に立ち入り禁止のフェンスを見つける女。その先は深い海。
徐々にそのフェンスへ向けて走り始める女。
彼女はそのフェンスと自分の中に出来た「心の壁」をリンクさせ、その「壁」に向けひたすら走り続けるのだった…。
かつて、少女時代、学生時代、何度も何度も体験した自分の心の壁との葛藤…現実に立ち向かい、越え続けなくては前に進めなかった、壁との戦い…。
女はフェンスに向かって走り続ける…。

  時は経ち…幾つも越え続けた「ココロの壁」だったが…あの女は自分の部屋から抜け出せない、所謂「引きこもり」の女に成長してしまっていた。
毎日繰り返し見る悪夢…何度も襲ったココロの傷のトラウマは彼女の精神を病んでしまっていたのだ。
全て遮断し、両親から離れ一人で暮らしている彼女は、
自分で作った祭壇の蝋燭に毎日炎をともし…、時間を掛け何度も何度も歯を磨き上げ…、沸騰しきっても尚ケトルを見続け…、締め切った窓の外を見ることすら無いのに毎日、明日の天気を気にする…
そんな彼女のごく当たり前の日常を日々過ごしていた…。

ある朝、彼女の元に、宛名なしの封書が届く。その中には1言「タスケテ」の文字…。
初めは何も気に留めなかった女だったが、誰かがずっと彼女を求めるように、呼び続けているように思えてきて、気になり始める。
いつしか女は「タスケテ」の手紙と、今の自分の境遇を重ね合わせ始めてゆく…。

徐々に彼女は、心に染み付いた「孤毒(コドク)」を洗い流し、差出人の分からない「タスケテ」の主の元へ、歩を進めようと決心する。 必死で自分の「毒」と戦いながら…。

やっとの思いで久しぶりに自分のテリトリーから踏み出した女。
しかし、外の世界はまるで、死んだ様に全てをなくしていた…。
誰も居ない街…、音を無くした世界…。

そこに突然、女に声をかける男。
彼は「夢で君を見た」という。
まるで彼女をナンパするような口調で話しかける男だが、今の世界では彼の声しか聞こえない…。他には誰も居ない…いや、彼の実態すら定かではない…。
彼女は「人助け」をするとその男に告げ、歩を進め続ける。

女は何かに呼ばれる様に1歩1歩、踏みしめながら歩いてゆく…。
「1,2,3…1,2,3…」とココロの中で自分を励ましながら…
ただひたすら歩いて行く…。

そして、その先には…。

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